私は、中平さんについては写真の大学に行っていた学生の頃は全く知らなくて、初めて知ったのは、ホンマタカシさんの写真集『きわめてよいふうけい―SHORT HOPE 中平卓馬』だったのだけど、それ以来、ずっと気になっていた人だった。
現在の中平さんについての、映像を見たり写真を見たり文章を読んだりして少しの情報はあったのだけれど、本人を目の前にして見るのは初めてだった。
ホンマさんの写真集と変わらない服装でやってきた中平さんは、入って来た途端、客席に座ろうとしたり、本人はいたって普通なのだろうけれど、それが周りの人には愛嬌のある風に見え、笑いがおこる。
スライドショーを見た後に、トークショーが始まったのだけど、中平さんの話がやっぱり一番みんなの心を奪っていた。話をしているのだけど、時には呟きになったり、中平さんの思考は今、脳の中でどのあたりを走っているのか、それを私はじっと見つめていた。
なんていうか、その言葉になっていないような言葉に耳を傾けていると、あっちへいったりきたりしているのに、なんだか中平さんと一緒にそこにいて見たり感じたりしているような気分になったりもした。
繰り返される話の内容は、思わず微笑んでしまう。会場は、何度も笑いが沸き起こった。なんとも、屈託がなくかわいいという印象。だけど、それだけじゃ ないっていうのが、その聞き取りにくかった呟きの中に含まれていて、聞き取れたとしてもとうていそれを理解するには足りない気がした。
ただ、中平卓馬さんをみていて、ここ最近ずっと触れ続けている岡本太郎さんと同じような眼を持っている人だと、強烈に感じて、その純粋さをひしひしと感じて感動しました。
最後のスライドショーが始まる前に、一番前の席の人に、トークショーの中で話していた巨大蛇の載っているページを差し出して、「ほら!」って説明してく れたり、「ムツゴロウ」って言われるようになったっていうのを何度も言っていたり。現在の中平さんは、そんな風なとても屈託のない人だった。
1977年に倒れて以来、多くの記憶をなくし障害も残っている。そして、言葉を失った今でも、写真を撮ることを続けている。それは、もう言葉にならないくらい凄い事だって思う。
それで、この本を開いてみた。
私は、無意識のうちに見えない力で、見たいものへ引き寄せられているような気がしてならない。大きな流れでは、ダライラマ法王から岡本太郎と吸い寄せら れるように来ているのだけれど、その上で中平さんの過去の文章に触れる事ができたというのは、とてもいい流れだったような気がする。もし、突然この本に出 会っていたら、とても感動しただろうことは間違いないって思うけど、その感動はもっと浅かったかもしれないと思う。
とにかく、感動しているのです。
彼の、とても純粋な眼、思考、葛藤。それは、写真というものを純粋に愛して、それを表現の手段とした者の本当の姿のような気がします。写真というのは、 シャッターを切った時、自分が考えている以上のものを捉えてしまうものだから。そう言う点では、絵などの他の個人が生む芸術とは異なる部分を持ち合わせて いると思う。
そんな写真と言葉の間で生きてきた中平さんの言葉に、とても共感出来る苦しみや葛藤を、随所に感じる事ができる。私は、中平さんのように、こんなに素晴 らしい文章でその葛藤を表す事はできないけれど、私も過去の中平さんと同じような壁を感じ悩んでいる。だからこそ、今回、そういう葛藤をしていた中平さん を知って、とても愛おしく感じたとともに、とても緊張感をもって彼の生き様を見るようになった。
共感したなんて書いたけど、もちろん私は、足下にも及んでいない。まだまだまだまだ私は甘いのだ。
それに、いくら私の思考がちょっと男性よりだとしても、男の人と女の人とでは違うと思っている。男の人が背負っている、女にはすべてを理解しつくせな いかもしれない大きな仕事と、それに対して純粋につらぬこうとして打ち込んで闘い続けるその姿の奥底がふと垣間見えた時、なんて孤独で哀しいと感じて、胸 がいっぱいになる。だけど、そういう姿こそ女性が無条件に感動し惹かれる部分だったりするのかも知れないと思う。
どんなに哀しさが渦巻いていようとも、ニッコリ笑って古いものを捨てつつ、どんどん変化して行く、見えないけれど見たいその先にある「こういう もの」へ眼を向ける。その変化し続け、繰り返しの中にある、出会いとコミュニケーションの中に、生きる喜びがあるのかなあということを、最近強く感じています。
近年は、こういったブログだってそうだけど、メールで用事が済んでしまったり、SNSで言葉をやりとりしたり、写真だってインターネット上を始め、もう本当に溢れている。何が現実で何が嘘なのか、そんなことですら、どうでもよくなってきているような流れも感じられる。
そんな事が当たり前になっている中、中平さんや岡本太郎さんがぶち当たった大きな壁、そして、それを乗り越えてきた様々な現実。その純粋な情熱と冷静な
思考は、本を通して膨大な量の言葉となって残さた。これは、とても凄い事だ。そして、私たちに色あせる事なく、語りかけている。
大切なのは、結果ではなく、そのプロセスと生身のコミュニケーションなんだ、と。
トークショーの後、あまりにも集中し過ぎて疲れていたのか、思いっきり障害物につまずいて、コンクリートの上に手と膝をついて転んでしまった。
本当に酷い転びっぷりだったのに、打ち所がとてもよかったらしくって、無傷だった。もう、それこそ何年ぶりだろうって言うくらいに転んだので、かなりぞっ
としたできごとだったけど、その無傷だったって言うのが本当に不思議。
みなさんも、足下には気をつけてくださいませ。(笑)
おまけ:渋谷へ向かう横断歩道で、強い向かい風が私の身体を襲った。それは、本当に心から気持ちのいい風で、空を見上げたら、これまた本当に美しかった。
MEMO:タワレコは、28日からWポイントだそう。今日は、欲しいCDがたくさん目についちゃったから、ひとまず自分には1枚も買わずに帰って来た。
せっかくのWポイントに合わせ、お財布と相談中。
おまけ2:マンションの脇でじっとしていたとかげ。
[this is good]
はじめまして。
僕も先週、中平さんを 葉山で見かけました。
赤い帽子をかぶって あのまんまでした...。
実は ファンが かなりいますよね。
前の職場にも いましたよ。
以前、横浜に写真展を観に行って
やはり 昔の写真が インパクトありましたけれど
現在の写真も 違った良さが あったりで...
あとは やっぱり あの人のキャラクターでしょうか
なんとも いえない良さがあります。
投稿情報: kawntack | 2007/04/23 23:45
はじめまして、かな?(笑)
そうですね、あの人の今現在のキャラクターしかわからないけど、
倒れる以前の文章を読んでいると、
確かに同じ人間だって言うのはわかるのだけど、やっぱり
異質な印象も感じてしまう。とても不思議な感じがするのです。
本当に、人間の底力を感じます。
彼は、人間としてとても深いところまで生きている人だと感じています。
写真も、本当にいいですよね。
投稿情報: Ryoco | 2007/04/24 00:07
[いいですね] オイラは数年前鎌倉で見たお。やっぱり赤い帽子をかぶってた笑。お弟子さんかな?若い方と歩いてた。一見めちゃくちゃ普通のおっさん。でも私は心のなかで「このおっさんすっごい有名な写真家なんだよ〜!」で周りの人に叫んでみたりして。昔の写真ならまだ自分なりの理屈があって撮ってたみたいなので人間味を感じるのだけど、最近の写真はもう異次元にイってる感じがして私には理解不能です。でも魅了はされますね。
ps; 今、岡本太郎の本読んでます。
投稿情報: miyu | 2007/04/24 11:46
そう言えば、見たって言っていたよね!
二人とも、凄い偶然だね。
いやあ、本当にトークショーに行って良かったよ。
トークショー・・・とはちょっと違うかも知れないけど。
お、岡本太郎読んでいるのね!
どう?
投稿情報: Ryoco | 2007/04/24 22:01